2019.06.14

循環を前提とした社会(サーキュラーエコノミー)の構築

モノ:ファクトリーの挑戦は、2007年にさかのぼる。また“モノ:ファクトリー”という単語はもちろん存在していない。

当時、関連会社である株式会社ナカダイは、創業以来の鉄、非鉄スクラップ業で培った分別、解体のノウハウを活かして、すでにリサイクル率は95%を超え、廃棄物処分、資源循環業としてそれなりにうまくいっていた。

そのころの私、中台澄之は、証券会社から株式会社ナカダイに転職して8年程度経っていて、証券会社時代の営業ノウハウを生かして顧客を増やし、それなりの結果を出していた。しかし、会社の現状に対し違和感を持ち始めていた。私たちの商売は、廃棄物であれ、有価物であれ、量×単価で売り上げが決まる。お客さんの廃棄物削減は、私たちの売り上げ減に直結する。世の中のすべての人が廃棄物削減を望んでいて、おそらく、私も望んでいるのだろうが素直に喜べない。本来、廃棄物の、リサイクルのプロである私たちこそが、廃棄物の削減を一緒に取り組むべきではないか?このまま、顧客や社会との利害が一致しない仕事を続けて、量の拡大していくのか?将来、希望が持てるのか?と思い始めた。

試行錯誤の末、量の商売からの脱却を決断した。

これまでの、“効率的にリサイクル処理をする会社”ではなく、“丁寧に分別、解体して新しい素材を生産する会社”であるとビジョンを変え、社内改革に乗り出した。新しい素材、珍しい素材として付加価値をつけ、量ではなく、質で勝負しようと考えたのである。本格的に運用開始して半年後に起こったリーマンショックで多大なダメージを受けたことが逆に、私の改革を加速させることになる。素材の価格が下がった。しかし、世の中の商品価格は変動していない。付加価値が低いことが最大の要因である。トヨタの生産方式をはじめとする様々な生産管理を学び、これまでとは全く違う商品管理(廃棄物管理)、在庫管理を行った。量で勝負しない、廃棄物の質で勝負するわけだから、廃棄物という私たちの“メイン商品”の魅力、付加価値を探った。そしてたどり着いたのが、発想はモノから生まれるというコンセプトの”モノ:ファクトリー“の設立である。

当初、モノ:ファクトリーは株式会社ナカダイの一部門として発足したが、現在は株式会社モノファクトリーとして法人化している。株式会社ナカダイで中間処理(主に選別)され、排出事業者からそのままの形状での使用許可をとったモノのみを購入し、テレビ局のセットやイベント、建築など様々なジャンルでの新たな使い方を創造する企業である。これにより株式会社ナカダイは、創業以来のリサイクルと、2001年に立ち上げたリユース市場と、株式会社モノファクトリーの三事業一体化した“リマーケティングビジネス”を確立することができた。そして、2013年、Good Design賞、未来づくりデザイン賞特別賞を受賞した。プロダクトではなく、このビジネススキームそのものが第三者によって評価された最初の事例でもある。その頃は積極的に自社のブランディングを行い、メディアの露出が増えたこともあり、新たなマーケットの開拓も少しずつできるようになっていた。同時に、工場見学も積極的に受け入れた。現在では数千人が訪れるようになり、観光雑誌にも載っている。リサイクルの勉強もするが、私たちの業界の人間は怖くないし、現場も危険じゃない。逆に、見たこともないたくさんモノを発見することができる宝庫であり、数年間に流行った商品が運び込まれるなど時代を感じることができる場所で、人が不要と判断したモノの別の使い方を提案するクリエイティブな職業であるということを知ってもらうことが目的であった。ナカダイの社員や雇用環境にも大きな影響があった。環境学習、企業研修などのたくさんの人の来場の際、社員にとっては当たり前の解体業務や分別技術、フォークリフトを運転する姿への感嘆や驚きの声は大きな励みになり、自分の仕事に誇りを持つようになり、社内改革への理解と改善の加速、離職率の低減、入社希望者の増加など、効果は抜群であった。

株式会社ナカダイの理念は、“多様な価値観と自由な発想で社会に貢献する”である。私は、理念は企業にとって最も重要な要素の一つだと考えている。理念は標語ではなく、全社員の行動の基準であり、これなくして企業文化は育たない。そして、“使い方”を創造し、“捨て方”をデザインするというビジョンで行動を定義している。“使い方”の創造はこれまで書いてきたとおりだが、ここでは、“捨て方”をデザインするについて触れたい。

“捨てられたモノ”をデザインするのではなく、“捨て方”そのものをデザインすると宣言している。ここでいうデザインとは、何かを彩る、化粧するといった狭い意味ではなく、リサイクルや適正処理を含めたあらゆる手段を指している。廃棄物処理業は許可業なので、廃棄物となったら法に従わなくてはならない。しかし、“捨て方”をデザインするとは、廃棄物にしない選択肢を含む。お客様との会話は、機密性があるのか?ほこりや雨に濡れないような保管はできないか?などであり、リユースはもちろん、別の用途で使うことで廃棄物にしないというスキームを探る。おそらく、ほとんどの皆さんが環境的にも、経済的に良いことだと考えるはずだ。しかし、それを拒む要因の一つは機密性で、新製品開発中を筆頭に、企業の経済活動上そのままの形状で、別の用途での使用を許可できない場合はある。しかし、これ以上の阻害要因は、お客様での保管、運搬業者による運送、処理会社での荷下ろし、保管というすべてのフェーズで、使うことを前提としたモノの移動ができないことにある。廃棄物として取り扱い、運搬してきて、結果的にきれいだから使えるね、となるパターンは非常にまれである。つまり、使うことを前提としたスキームを構築する必要がある。しかし、これが非常に難しい、なぜなら、これほどの情報化社会にもかかわらず、“捨てる情報”をあらかじめ手に入れることは非常に難しいからである。新製品は、企画段階からしっかり計画して販売するが、ほとんどの企業、個人は、計画的に廃棄物(ゴミ)を捨てない。一部、ネットサービスを除き、丁寧に捨てたところで、それを引き取ってくれる、使ってくれるマーケットも存在しない。私は機密性がなく、別の用途で使用可能廃棄物=素材をソーシャルマテリアルと定義しており、誰もが手に入れることができる日本版マテリアルライブラリーのようなプラットフォームを形成したいと考えている。次に使うマーケットが形成されれば、自ら不要と判断したモノを、廃棄物(ゴミ)にしない行動をすることで、経済的にも環境的にも大きな効果が見込める。捨てる情報を社会で共有する仕組みの構築は、非常に重要な要素である。それを利用した廃棄物にしない提案とそのスキーム構築こそ、リマーケティングビジネスである。

今は循環型社会(サーキュラーエコノミー)の構築をする絶好の機会と言える。中国を含めたグローバルなモノの移動を前提としてきたこの数十年のスキームが遮断され、国内を中心としたモノの移動をしなくてはならなくなった。そもそも、モノの広域の移動は環境的にも経済的に不合理であるにもかかわらず、人件費の安さが手伝い、私たち日本人は海外輸出を選択してきた。結果、環境に大きなダメージを与えてしまった。それがこれまで海外の人に委託してきた廃棄物のリサイクル化、適正化を国内で完結しなくてはならなくなっただけである。モノが売れない、シェアする時代に、捨てる情報を手にいれ、そのモノを引取り、情報とモノを社会に共有し、使う人に繋く。繋げない場合はこれまでの私たち廃棄物処理業者のプロフェッショナルであるリサイクルや適正処理をするというサーキュラーエコノミーの構築は、リサイクル業界にとって大きなビジネスチャンスである。なぜなら、この循環の輪の中で、長年にわたって培ってきた回収スキーム、保管、処理、有価物化などのノウハウが不可欠であるのは間違いないからだ。前段でもふれたように、廃棄物を減らす積極的な提案は、自社の廃棄物処理売り上げを圧迫することを意味するし、新たなジャンルへの一歩は大きな勇気も必要かもしれない。しかし、現在の私たちを取り巻く環境を鑑みれば、そこに踏み出さなければならない。弊社としても、今後も継続して時代の流れをしっかり捉え、様々なジャンルの人材を登用し、様々なジャンルの業界とコラボレーションすることで、新たな展開を模索していきたい。

 

株式会社モノファクトリー代表取締役 中台澄之

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